- 30DESIGNS HOME
- COLUMN
- AURORA GRAN
- Interview
表参道の路地裏には
「オーロラグラン」という
自由で心地よい宇宙が
広がっています
6月某日。新緑が美しい、晴れた表参道。
小径を入ったところにあらわれる、
雰囲気のある一軒家を訪ねました。
人気ブランド「オーロラグラン」の
ショップ兼工房です。
今回の訪問の目的はただ一つ。
「オーロラグラン」の魅力を
もっと知りたい、ということ。
オーロラグランは、スタッフが10年以上
ずっと好きだったことがきっかけで
お取り扱いさせていただくことになった
ジュエリーブランドです。
すてきな「もの」の背景にいる、
すてきな「ひと」に会って
お話しを聞きたいと思いました。
そのような想いを胸にショップ兼工房に
足を踏み入れると、
すがすがしい表情の二人のデザイナーと
物静かなクラフトマンが
出迎えてくれました。
手作業で仕上げるジュエリーの裏には、
JAZZのセッションのような
掛け合いがあるといいます。
スタッフが好きなすてきな「もの」を
つくる「ひと」は、
自然体で、幸せ感につつまれ、
ずっとお話しを
お聞きしていたくなる方たちでした。
川口 育代(Ikuyo Kawaguchi)
オーロラグラン 代表、デザイナー。オーロラグランの商品すべてのデザインディレクションも行う。コラージュ、写真、グラフィックデザインなど、多岐にわたる表現を行うアーチストとして活躍し、ジュエリーも「表現のなかのひとつ」としてオーロラグランをスタート。茶道、建築、ピアノ、料理など、どれも自身のインスピレーションを表現するものとしてフラットに捉える柔軟性が魅力の生粋のクリエイター。旅が好きで、旅先で得たイメージからデザインしたジュエリーも多い。視点がかいま見られるインスタグラムも必見。
https://www.instagram.com/ikuyogran/
ノグチ ミナコ(Minako Noguchi)
オーロラグラン デザイナー。ジュエリーデザイン、制作を学び、卒業後は学生のころから大好きだった金属の世界へ。美術工芸品、オブジェ、貴金属などを制作する企業を経て、オーロラグラン設立に参画。今でも、ジュエリー以外に一枚の金属板から花瓶やオブジェを制作する。空が広いところをみつけて行くのが好きで身近な公園、旅、登山にふっと出かける。自然に触れる機会を大切にする、そのライフスタイルが、生命力に満ちた、美しいジュエリーデザインに息づいている。
小林 宙(Sora Kobayashi)
オーロラグラン クラフトマン。手もとでつくることのできるサイズ感にぴんときて、ジュエリーアート科で学び、オーロラグランへ。デザイナーが思い描くものを的確にとらえることに長けた、精粋の職人。ジュエリーだけでなく、店内の什器なども器用に自在につくり上げる。
ブランドの醸し出す、
おおらかで心地よい、
空気感はどこから?
~
朝の時間の好きなこと、
大切にしていることを
教えてください
~
ノグチさん
天気の良い日は少し早起きをして近所の隅田川へ散歩に出かけます。
顔だけパシャッっと洗って、コーヒーを片手に川面と街を眺めながら
ぼーっと過ごすのが好きです。リセットされる時間です。
川の近くは空が広いので気持ちも広くなるような気がして
慌ただしい日が続くと自然と足が向いていますね。
朝の通勤も自転車で行くことがあります。
表参道のアトリエまでは片道1時間かかるのですが
その道のりが楽しいんです。
蔵前から日本橋、丸の内、皇居、霞ヶ関、赤坂を抜けて青山へ。
下町から東京の真ん中を走り抜ける。
旅の途中のような非日常感を味わえる大切な時間です。
目が覚めたときに、窓から光が入ってくるのを見るのが好きなので、朝の光で部屋の中が明るくなる様子をベッドの上で眺めていたりしますね。
うとうとしている時間って気持ちがいいので、うとうとしながらちょっと考えごとをしたりするのは、その日の何かいいこととつながるのかなと思います。
仕事場へは、余裕があるときには歩いて散歩しながら来ることもあります。住んでいるところからここまで、ずっとグリーンの中を通り抜ける経路があるので、そういうところを選んで来たりします。都会の面白さがある地下鉄もいやではないです。地下鉄に乗って普通に通勤もします。
川口さん
小林さん
仕事の時はどうしても満員電車にずっと乗ってくるので、「イライラしたら負け」というふうに思って、平常心を保つようにして来ています。なるべく心を穏やかにして仕事に向かうというのが日課というか。
精神状態がすごく作業に反映するんです。自分が思っている以上に反映する。たとえば、石留めは落ち着いていないときは絶対にやらないとか、あります。
華奢なかたちや大きさから、
繊細な印象をもつ
オーロラグランのジュエリー
そこには大きくダイナミックな
イメージが凝縮して表現されている
~
繊細なデザインと
その背景にある
ダイナミックなイメージについて教えてください
~
ノグチさん
私の場合、定期的に大自然の中に身をおくことをとても大切にしています。山から眺める景色、大きな空(宇宙)、瞬く星、潮の匂い、海の碧さ深さ、無意識に五感で感じた記憶がふっとジュエリーのデザインとして浮かんでくるんです。
細かいディテールやシェイプは繊細なのですが、気持ちとしてはダイナミックなものを作っています。
ひとしずくの水滴にも広大な宇宙が広がっている、という感覚です。私たちにとって繊細さは、ものの大小ではとらえていません。
小さなものでも繊細でないものもありますし、大きなものにも繊細さを感じるものもあります。「細胞と宇宙が繋がっているイメージ」です。
そして、イメージをかたちにしていくときには、フォルム、ディテール、質量感をチューニングしながら作業をします。その細かいこだわりが仕上がりを繊細にしているのだと思います。
私たちの会話にはプチプチ、つるん、ポツンポツン、シャシャシャー、とか擬音語がよく使われます。形やディテールを感覚的な表現で伝え合っているのです。
川口さん
イメージしたものを
かたちにしていくときの気持ちは、
「チューニング」
~
制作をするうえでの
「苦労」や、
かたちにしていくうえでの難しさを教えてください
~
ノグチさん
制作に試行錯誤した特に印象深いデザインにアルハンブラというシリーズがあります。
中東の装飾デザインやイスラミックパターンが好きでエジプトや、トルコなどを旅した際、いつかジュエリーに落とし込みたいなと思っていました。
そして生まれたのがアルハンブラです。
スペインのアルハンブラ宮殿のイメージから生まれました。
ダイナミックな壁面のパターンを小さなジュエリーの上で表現するのは簡単ではありませんでした。
ベースを台形にすることで奥行き感をだしたり、彫刻の線の太さ、パターンのサイズは最大限美しく収まるよう何度も何度も調整しました。
表現できるできないの限界があるので、その中ではかなりベストな状態に仕上げることができたなという、思い入れのあるリングです。
外部サイト(AURORA GRAN WEB SHOP)へ移動します。
自分のイメージしたものをかたちにしていくときの気持ちというのは「チューニング」です。ラジオを合わせていくときに、あ、なんかぴったり合ったとか。楽器もチューニングってあるじゃないですか、微妙な音を合わせていくときに「この音!」という感じ。自分で、ものをつくり出すってそういうイメージですね。
ジュエリーに限らず、コラージュをつくったりもしているんですけれど、自分のつくるものがぴたっといいなと思うのは、まさにチューニングですね。ピアノを弾くのが好きなんですが、この和音いいなとか。
ひとつのジュエリーをつくる時も同じです。細かいカーブなどは、(ノグチ)ミナコさんもすごくこだわりがあるんです。こうじゃない、こう、とか。
制作するうえでの苦労は、理想のイメージを現実的に可能なかたちにするときです。
身につけるものですから、例えば引っかかりにくいとか、弱すぎないか、と物理的な強度などです。イメージどおりに、それがつくれて使える限界、そのせめぎ合いです。
苦労から工夫が生まれる、または潔く別のアイディアにシフトする、そして納得できるものが生まれていきます。デザイナーと職人とのチームワークの醍醐味です。
川口さん
~
30DESIGNSでお取り扱いさせていただいている
アネモイリングについても、
お話しをお聞かせいただけるでしょうか
~
川口さん
アネモイリングは、窓を開けたときの気持ちよさというものをテーマにしています。あのかたちには、ちょっとイスラミックな感じをデザインの要素として入れています。丸なのか、四角なのか、星形なのか、この形で、ここの指についたらすごく素敵だなとか。あ、デザインをするときにわたしは指を見ます。指をこうやって(顔の前に手をかざして)見て、どんなのがここにきたらいいかなというのを投影しますね。
線は繊細なんだけど、かたちはすごくおおらかでダイナミック。わたしが一番好きなのはプレーンリングなんですが、アネモイリングはその何もない本当にミニマムな要素とダイナミックなデザインを共存したようなデザインになったと思っています。
二人のデザイナーとクラフトマンで
仕上げていくジュエリー
そのコミュニケーションは、“JAZZ”
~
インスピレーションや思いは、どのようなやりとりで
具体的なかたちになっていくのでしょう?
~
小林さん
ぼくの役割って、デザイナーのイメージを現物にするまでに中間点で、
いかにくみとって、イメージに近づけるかというのが仕事だと思っているんですね。デザイナーがチューニングしているときに、こっちかな、こっちかなというのをくみとって出すというのがぼくの役割なんです。
理論的でなく直感的な二人だとぼくは感じているので、それをいかにくみとってイメージに近づけるか。
くみとってもらってありがとう。
川口さん
小林さん
それがうまくいかないときも、もちろんあるんですけれど、逆にイメージ以上のものを出せたときがいちばんおもしろいですね。
~ そのコミュニケーションって気持ちがいいですね ~
そうですよ。バンドみたいなもの。JAZZなんです。
息を合わせたり、ずらしたり、ぴったり合った瞬間って気持ちがいいじゃないですか。それなんだと思います。
ブランド自体も、スタッフも全員そう。同志との関係も同じです。
川口さん
ノグチさん
そういう点では、(小林)宙さんは「合う」ときが多い。
他の職人さんとも関わることがあるんですけれど、宙さんは伝わりやすいし、汲み取ってくれる。
ニュアンスを分かってくれる。
言葉にできなかったりとか、うまく伝えられないときもあるんですが
ちゃんと返してくれるんです。
制作の途中「ここちょっと違うよね」って伝えると「そうですよね、だと思って見せました」というときがある。
本当に感覚が近いんです。
魅了しつづけるブランドたる由縁
マーケティングや計算ではなく、
「アンテナにひっかかったものを素直に」
~
オーロラグランさんの
ぶれない世界観に
魅了されています。
ぶれずに長く続いていらっしゃる
秘訣は何でしょうか?
~
川口さん
わりとプライベートブランドみたいな感じです。自分たちのためにつくっているものを、よかったらみなさんにもお分けしているような感じです。気に入っていただけたらって、本当にそういう感じなんです。
(川口)育代さんが好きなものもすごくいいなと思う。いいなと思うことが多い。
ノグチさん
川口さん
感覚が近いんでしょうね。そして絶対同じということはあり得なくて、それが面白いわけだから、刺激をしあって。
自分が投げかけたものにこんなものがもどってきて、また投げかけて。
ぴったり合うだけがいいわけではなくてね。
逆に2種類の違う雰囲気の商品が合わさって1つのコレクションになっているので、その混ざり具合がお客さまから見たら面白かったりするのかもしれないですね。ずっとひとりの人がつくって、ずーっとひとりのデザインだけだったら、もしかしたら続いていなかったかもしれない。
ノグチさん
川口さん
あとは、「変わってもいい」とわたしは言っているんです。
好きな感じってきっとしっかりあって、それを軸にいろいろ変わっていっているのだろうなと思って。それを無理に戻さなくても、変わったら変わったで、そのときにやりたいものをやるのでいいし、それが一番正直というか、無理なく続けていける。
「変わってもいい」と言ってもらいながら、自由にデザインをやらせてもらっているのですが、そんな中でやっぱりぶれてしまう時もあります。
そんなときは育代さんがスッと舵取りをしてくれて、とても自由に気持ちよく仕事をさせてもらっています。
ノグチさん
川口さん
マーケティングも一応考えてはいますが、基本的に好きなことをしています。まわりの事はあんまり気にしていません。
でも本当にアンテナが立っているんですよね、きっと。自分のアンテナにひっかかったものを素直にパッと出すので、それが偶然、みなさんが好きなもの、そのときの時代感とか気分とか、そういうものとぴったり合ったりすると、人気商品になるものもあります。
私たちがつくり出したジュエリーにはそれぞれコンセプトや思いがありますが、そこに使ってくださる方のストーリーがかさなって、その方だけのジュエリーになっていくのだと思います。